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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)109号 判決

原告

選定当事者

山田秀夫

選定当事者

山田妙子

選定当事者

古澤隆司

選定当事者

古澤壽美子

(選定者は別紙選定者目録記載のとおり)

被告

東京都選挙管理委員会

右代表者委員長

新井一男

右訴訟代理人弁護士

鎌田久仁夫

右指定代理人

大西又嗣

外一名

選定者目録〈省略〉

主文

一  原告らの本件訴えのうち、原告ら提出の別表第一の議員定数配分に基づき適法な議員定数配分規定を示すことを求める訴えをいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一請求の趣旨

1  平成五年六月二七日に行われた東京都議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)のうち、足立区選挙区における選挙を無効とする。

2  原告ら提出の別表第一の議員定数配分に基づき裁判所として適法な議員定数配分規定を示す。

二被告の本案前の答弁

本件訴えをいずれも却下する。

三被告の本案の答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二事案の概要

本件選挙の足立区選挙区の選挙人である原告らが、東京都議会が平成四年六月一七日に改正した東京都議会の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(以下「定数条例」といい、右改正を「本件改正」といい、本件改正後の定数条例を「本件条例」という。)の内容は、千代田区選挙区を公職選挙法(以下「公選法」という。)二七一条二項のいわゆる特例選挙区とした点で同法に違反し、かつ、議員一人当りの人口の較差(以下単に「人口較差」という。)が最大1対3.52に及び、本件改正前の定数条例よりも較差が拡大し、四二選挙区中一三選挙区の議員定数配分が当該選挙区の人口を公選法一五条二項所定の議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」という。)に応じて定数を配分した人口比定数と一致せず、また、人口と議員定数配分との逆転減少が一八通りあり、定数二人の差のある顕著な逆転現象も二通りあって、憲法一四条一項の要求を受けた公選法一五条七項の人口比例原則に違反するものであるから、本件条例に基づいて行われた本件選挙は違法であると主張して、その無効を宣言する判決を求めるとともに、過去に裁判所から三度も従前の定数条例の違法を宣言されながらその抜本的是正をしない東京都議会はもはや当事者能力を失っていると主張して、裁判所が適法な定数配分規定を判示するよう求めたものである。

一当事者間に争いのない事実

1  原告らはいずれも本件選挙の足立区選挙区における選挙人であり、被告は本件条例に従って行われた本件選挙を管理した選挙管理委員会である。

2  原告らは、平成五年七月一日、被告に対し、本件選挙のうち足立区選挙区における選挙を無効とすることの決定を求め、公選法二〇二条に基づき異議申出をしたが、被告は、同月二六日同異議申出を却下する旨の決定をした。

3  本件改正前の定数条例の内容は、別表第二のうち選挙区及び現行定数欄記載のとおりであり(以下、右定数を「改正前定数」という。)、一二八人の議員総定数を四一選挙区に配分していた。

改正前定数は、平成二年一〇月一日の国勢調査人口による配当基数に基づく人口比定数と対比すると、右別表第二のとおり人口比定数より区部において八多く、市郡部において八少なく、四一選挙区中二三選挙区において不一致があり、人口比定数より二多いのが新宿区、渋谷区、三少ないのが練馬区、二少ないのが足立区、江戸川区、八王子市となっている。また、人口較差は、右別表のとおり千代田区対日野市間の1対4.2が最大であり、いわゆる逆転現象は八〇通り(原告らの主張)ないし七九通り(被告の主張)あった。

4  本件改正による本件条例の内容は、別表第三のうち選挙区及び現行定数欄並びに別表第四のうち選挙区及び改正定数欄記載のとおりである。

本件改正は平成二年一〇月一日の国勢調査人口を基礎とするものであって、その主要な改正の内容は、(一)選挙区の区分として、北多摩第四(定数三)を小平市(定数二)と北多摩第四(定数二、田無市・保谷市)に分区し、(二)渋谷区等八選挙区の定数を一減じ、練馬区等八選挙区の定数を一増加し、(三)千代田区選挙区を公選法二七一条二項による特例選挙区として存置することとしたものである。

本件改正により、議員総定数は改正前と変わらず一二八人、選挙区が一増加して四二選挙区となったが、本件条例による定数は、配当基数に基づく人口比定数と対比すると、別表第三及び第四のとおり人口比定数より区部においては三多く、市郡部においては三少なく、四二選挙区中三一選挙区において不一致があり、練馬区においては二少なくなっている。人口較差は、右各別表のとおり千代田区対武蔵野市間の1対3.52が最大であり、特例選挙区とされた千代田区選挙区を除く選挙区間の人口較差の最大は中央区対武蔵野市間の1対2.04であり、いわゆる逆転現象は一八通り(原告らの主張)あって、品川区・町田市間では定数が二逆転している。

二原告らの主張

1  昭和四〇年以来の国勢調査人口による千代田区選挙区の配当基数を見ると、昭和四〇年が1.078、昭和四五年が0.856、昭和五〇年が0.727、昭和五五年が0.669、昭和六〇年が0.542、平成二年が0.426であって、公選法二七一条二項が改正されて現行の規定となった昭和四一年当時の千代田区選挙区の配当基数は一を超えており、配当基数が0.5未満の場合に適用される同条項は千代田区選挙区を念頭に置いたものではなかった。千代田区選挙区の配当基数が0.5未満となったのは、平成二年の国勢調査時が初めてであって、右昭和四一年の法改正から二四年も経過しており昭和四一年の改正当時の同規定にいう「当分の間」は既にはるかに経過している。

また、千代田区選挙区の人口減少は、事務所需要の拡大、業務地化の進行ないし住居スペースの減少、居住環境の悪化、地価高騰に伴う相続税の莫大な負担等の原因によるものであるが、昭和四一年に公選法二七一条二項が現行の規定に改正されたのは、いわゆる高度経済成長下にあって社会の急激な工業化、産業化に伴い農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応したものであり、右のような原因から人口が減少している千代田区選挙区の場合は右の立法趣旨に合致しない。

さらに、千代田区選挙区を他の選挙区と合区せず特例選挙区として独立して存続させた中心的理由は、同選挙区の代表としての議員を確保するためと見られるが、東京都議会議員は各選挙区の代表ではなく、全都民の代表であるから、右の理由は正当な理由となり得ない。

よって、本件条例における議員定数配分規定は千代田区選挙区をいわゆる特例選挙区として存置した点において公選法に違反している。

2  また、本件条例の議員定数配分規定の下における人口較差は最大1対3.52(千代田区選挙区対武蔵野市選挙区間)であって、改正前の定数条例の下での最大較差1対3.09(千代田区選挙区対武蔵野市選挙区間)よりも拡大しており、公選法一五条七項の人口比例原則に明らかに違反している。なお、千代田区選挙区が配当基数からしていわゆる任意合区の対象(公選法一五条三項)からいわゆる強制合区の対象(公選法一五条二項)に変わったからといって、より大きな人口較差が容認されるものではない。

3  さらに、本件条例における一三選挙区の議員定数配分は配当基数に応じた人口比定数と一致せず、また、人口と議員定数配分の逆転現象が一八通りもある。特に、品川区は人口が三四万四六一一人で定数が五、町田市は人口が三四万九〇五〇人で定数が三であって、定数が二も逆転しているが、公選法一五条七項ただし書にいう「特別の事情」がないのであるから、両選挙区とも定数四とすべきである。

4  定数条例による従前の議員定数配分は過去に裁判所から三度も違法を宣言されているのに、東京都議会はその抜本的是正をしていない。本件改正も従前の最高裁判所の判決が指摘した定数条例の定数配分の問題点の量的縮小を図ったにすぎず、東京都議会はもはや当事者能力を失っているので、本件において本件選挙を無効とするとともに、原告ら作成の別表第一の内容の定数配分に基づき裁判所として適法な定数配分規定を判示するよう求める。

三被告の主張

1  (本案前の答弁の理由)

公選法は、本件のような定数条例の議員定数配分規定の違法を理由とする選挙無効の訴えを容認していないから、本件訴えは不適法である。また、本訴請求中裁判所が議員定数配分規定を判示することを求める請求は、裁判所の権限外のことであり、東京都議会固有の権限に属する議員定数配分規定の決定を裁判所に求めるものであるから不適法である。

2  本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したのは、東京都議会において、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた歴史的な意義、役割及び特例区制度における地域代表の必要性等を総合的に考慮した上で判断したものであり、また、平成二年の国勢調査の結果による千代田区選挙区の配当基数は0.426であって0.5を著しく下回るものとはいえないから、同議会の右判断は合理的裁量の範囲内の正当なものであって何ら違法はない。

3  本件改正によって従前の定数条例の議員定数配分規定における人口較差は大幅に是正され、平成三年四月二三日の最高裁判所判決において指摘された問題点はほとんどすべて解消したものであり、本件改正によってもなお若干の問題点が残っているとしても、いまだ東京都議会の合理的裁量の範囲内にあるものであって違法の点はない。

4  仮に、本件条例に違法を帯びる点があったとしても、事情判決の法理により本件選挙を有効とすべきである。

第三当裁判所の判断

一第二の一の1、2の事実によれば、本件訴えのうち選挙の無効を求める訴えは公選法二〇三条の訴えとして適法というべきである。

被告は右の訴えは不適法であるとしてその却下を求めるが、地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定そのものの違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙に関する訴訟が公選法二〇三条の規定による訴訟として許されることは、既に最高裁判所の判例(最高裁昭和五九年五月一七日第一小法廷判決・民集三八巻七号七二一頁、同平成三年四月二三日第三小法廷判決・民集四五巻四号三五四頁、同平成五年一〇月二二日第二小法廷判決・裁判所時報一一〇九号一三頁)の示すところであり、当裁判所も同一の見解であるから、被告の右主張は採用できない。

二しかし、本件訴えのうち、裁判所が判決をもって適正な議員定数配分規定を示すことを求める訴えは、そのような訴えを許容している法律は存在しないから不適法であることが明らかであり、却下を免れない。

三そこで、本件選挙無効の請求について検討する。

まず、都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分は、現行法上、次のとおり定められている。すなわち、右議員の定数については、地方自治法九〇条一項により、その人口数に応じた定数の基準等が定められているが、同条三項によれば、右一項による定数は、条例により特にこれを減少することができるものとされている(なお、本件条例は議員の総定数を右の上限である一二八人と定めている。)。そして、公選法は、右議員の選挙区は、都市の区域によるものとし(同法一五条一項。なお、特別区については、同法二六六条一項により市に関する規定が適用される。)、ただし、その区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)の半数に達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区域と合わせて一選挙区を設けなければならず(同法一五条二項。以下「強制合区」という。)、その区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であっても議員一人当たりの人口に達しないときは、条例で隣接する他の都市の区域と合わせて一選挙区を設けることができるとしている(同条三項)。なお、東京都に限っては、特例が設けられ、東京都議会議員選挙における選挙区及び各選挙区に配分する定数については、先ず、特別区の存する区域を一の選挙区とみなして他の郡市との間の定数配分を行い、次いで特別区の存する区域に配分された定数について各選挙区に配分することができることとされている(同法二六六条二項)。そして、強制合区については例外が認められており、昭和四一年一月一日当時において設けられていた選挙区については、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しなくなった場合においても、当分の間、条例で当該区域をもって一選挙区を設けることができるものとされている(同法二七一条二項。以下、この規定によって存置が認められた選挙区を「特例選挙区」という。)。このようにして定められた各選挙区において選挙すべき議員の数は、人口に比例して条例で定めなければならない(同法一五条七項本文)が、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとされている(同項ただし書)。

右の各規定からすれば、特例選挙区を設けるかどうか、議員定数の配分に当たり人口比例の原則を修正するかどうかについては、都道府県の議会にこれらを決定する裁量権が原則として与えられているというべきである。

四加えて、特例選挙区に関する公選法二七一条二項の規定は、社会の急激な工業化、産業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応したものであるが、また、郡市が、歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実体を有し、一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、この地域的まとまりを尊重し、これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させることが、市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行うために必要であり、そのための地域代表を確保することが必要とされる場合があるという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による公選法の改正により現行の規定となったものと解される。

そして、具体的にいかなる場合に特例選挙区が認められるかについては、客観的な基準が定められているわけではないから、結局、右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の郡市との合区の困難性の有無・程度等を総合判断して決することになるが、それには当該都道府県の実情を考慮し、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする政策的判断をも必要とすることが明らかである。したがって、特例選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、この点に関する都道府県議会の判断が右のような観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するよりほかはない。もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関して公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、同法二七一条二項は、配当基数が0.5を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解されるから、このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。

五証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、定数条例は昭和二二年に始めて制定され、以来数次の改正を経て現在に至っているものであるが、昭和四四年以降のその改正内容を概観すると以下のとおりと認められる。

1  昭和四四年法律第二号による公選法一五条七項ただし書及び地方自治法九〇条二項の新設(定数配分についての地域性考慮規定の導入及び東京都議会議員についての定数の特例)に伴い、同年定数条例を全面的に改正し、議員定数の総数を一二〇人から一二六人とし、増加分を多摩地区に配分し、同地区において選挙区内の分区及び合区を行い、特別区の存する区域を一市として他の郡市との間に定数配分を行った結果、特別区の存する区域の配分定数は一〇三人のまま変更を生じなかった。

2  昭和四五年の国勢調査に基づく特別区の存する区域の人口が八八四万人余に減少し、議員定数の上限が一二六人から一二五人に減少したことや選挙区別の人口数にも変動があったことに伴い、昭和四八年には、台東区選挙区の定数を五人から四人に、品川区選挙区の定数を六人から五人にそれぞれ減員し、練馬区選挙区の定数を三人から四人に増員し、この結果特別区の存する区域の配分定数は一〇三人から一〇二人に減員し、北多摩第二選挙区から府中市選挙区を分区した。

3  昭和五二年法律四六号による地方自治法九〇条二項の一部改正は、議員定数増加の基礎人口を従前特別区の存する区域の人口一五〇万人につき定数一人としていたのを、人口一〇〇万人につき定数一人と改正したものであり、これに伴い、同年議員総定数を一二五人から一二六人に増員するとともに、町田市選挙区の定数を一人から二人に増員し、北多摩第一選挙区を北多摩第一選挙区と北多摩第五選挙区とに分区した。

4  昭和五六年には、議員総定数を一二六人から一二七人に増員し、南多摩選挙区から日野市選挙区を分区し、同選挙区に定数一人を配分した。

5  昭和五九年には、議員総定数は一二七人のままとして、六選挙区において三減三増の定数配分の改正をし、その際千代田区選挙区の定数を二人から一人に減員した。

6  昭和六三年には、議員総定数を一二八人に増員し、北多摩選挙区(定数一人)、南多摩選挙区(定数一人)、三鷹市選挙区(定数一人)及び町田市選挙区(定数二人)の各定数を一人ずつ増員し、荒川区選挙区など三選挙区の定数を各一人ずつ減員し、北多摩第二選挙区から小金井市選挙区を分区した。

7  東京都議会は、本件改正前の定数条例による平成元年七月二日に行われた東京都議会議員選挙のうち足立区における選挙を違法とした平成二年一月三〇日の東京高等裁判所判決及び平成三年四月二三日の最高裁判所第三小法廷判決がなされたのを踏まえて、同年七月一〇日東京都議会各会派代表一五名で構成する東京都議会議員定数等検討委員会を設置した。同委員会は平成四年六月一五日まで合計一二回の審議を重ね、併行して小委員会を一五回開催するなどして定数是正問題等の全面的検討をし、右各判決及び平成二年国勢調査の結果のほか、他県における定数問題の状況、今後の人口予測、東京都の特殊性などについて審議、検討し、学識経験者や区長、市長らからの意見聴取等を実施した。そして、第一二回検討委員会において、小委員会から定数是正の小委員会案の報告を受けたが、小委員会案は千代田区選挙区を特例選挙区とし、議員総定数は変更せず、北多摩第四選挙区の分区以外は選挙区の変更を行わず、特別区と三多摩地域間の不均衡を是正するというものであり、具体的な改正案としては八減八増とするもの二案、一三減一三増とするもの一案の合計三案を提示していた。そして、同検討委員会として、右小委員会案について検討の結果八減八増の案を支持する意見が多数となり、同月一七日共産党を除く各会派提案に係る本件改正の議案が本会議に上程され、原案どおり可決された。

本件改正の内容は、北多摩第四選挙区(定数三人)を小平市選挙区(定数二人)と北多摩第四選挙区(定数二人)に分区し、渋谷区選挙区、港区選挙区、新宿区選挙区、文京区選挙区、台東区選挙区、目黒区選挙区、豊島区選挙区及び荒川区選挙区の各定数を各一人減員し、右小平市選挙区のほか、練馬区選挙区、足立区選挙区、江戸川区選挙区、八王子市選挙区、立川市選挙区、日野市選挙区及び北多摩第一選挙区の各定数を各一人増員し、その一方、平成二年の国勢調査により千代田区選挙区の人口は議員一人当たりの人口の半数に達しなかったが公選法二七一条二項による特例選挙区として存置したものである。千代田区選挙区についてはその配当基礎が0.426であって0.5を著しく下回るものではなく、かつ、千代田区がわが国の政治的、経済的中枢として担ってきた歴史的な意義、役割及び特別区制度における地域代表としての議員の必要性等を考慮して東京都議会として高度の政治的考慮に基づき判断した結果特例選挙区としたものである。

8  平成二年一〇月一日の国勢調査の結果によると、本件改正により定数条例における議員定数配分の選挙区間の人口較差の最大のものは、従前千代田区選挙区対日野市選挙区間の1対4.2であったものが千代田区選挙区対武蔵野市選挙区間の1対3.52と縮小し、特例選挙区となった千代田区選挙区を除く選挙区間の最大較差は中央区選挙区対武蔵野市選挙区の1対2.04に縮小し、配当基数に基づく人口比定数と定数条例上の不一致については、定数条例上の定数が従前区部においては八多く、市郡部においては八少なく、四一選挙区中二三選挙区において不一致があり、しかも二多いのが新宿区、渋谷区、三少ないのが練馬区、二少ないのが足立区、江戸川区、八王子市と二以上の差が六選挙区あったものが、本件改正により本件条例上の定数が区部においては三多く、市郡部においては三少なく、四二選挙区中一三選挙区においてなお人口比定数との間で不一致があるものの、人口比定数より二以上の差があるのは練馬区が二少ないのみとなり、是正がされた。また、いわゆる逆転現象については、従前七九ないし八〇通りもあったものが、一八通りに減少し、定数二人の差のある顕著な逆転現象も六通りから一通り(品川区選挙区は人口三四万四六一一人で定数五、町田市選挙区は人口三四万九〇五〇人で定数三)のみに減少した。本件改正後の東京都平均と最大選挙区である武蔵野市選挙区との人口較差は1対1.50、区部平均と武蔵野市選挙区との人口較差も1対1.55であり、特例選挙区となった千代田区選挙区を除く選挙区間で人口較差が三倍以上の選挙区は従前一一あったものが、本件改正によって全部解消された。

六右五の事実によれば、千代田区選挙区の配当基数は0.426であって0.5を著しく下回るものではなく、いまだ特例選挙区の設置が許されない程度までには至っていないものというべきであり、他に東京都議会が本件改正後の本件条例において千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれないから、東京都議会が千代田区選挙区を特例選挙区として存置したことは同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認することができ、適法であるというべきである。

七次に、公選法一五条七項は、都道府県議会の議員の選挙に関してその住民が投票価値においても平等に取り扱われるべきであるという憲法上の要請を受けたものであり、その議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解される。もっとも、前記三のような現行法の各規定からすれば、同じ定数一を配分された選挙区中で、配当基数が0.5を僅かに上回る選挙区と配当基数が一をかなり上回る選挙区とを比較した場合には、右選挙区間における議員一人当たりの人口の較差が一対三を超える場合も生じ得る。まして、特例選挙区を含めて比較したときには、右較差が更に大きくなり得ることは避けられないところである。また、公選法一五条七項ただし書の適用に関しては、いかなる事情の存するときにどの程度の修正を加え得るかについて客観的な基準が存するわけではないから、条例の定数配分規定が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが前記のような選挙制度の下における裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。しかし、条例の定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の変動により右不平等が生じ、それが都道府県議会における地域間の均衡を図るなどのため通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときには、右のような不平等は、もはや都道府県議会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、同条項に違反するものというべきである。

そして、前記五の事実によれば、本件改正により本件条例における定数配分の内容は、人口較差の点で従前より大きく改善され、特例選挙区を除いたその他の選挙区間における人口較差の最大値は中央区選挙区対武蔵野市選挙区間の1対2.04、特例選挙区である千代田区選挙区とその他の選挙区間の人口較差の最大値は対武蔵野市選挙区間の1対3.52となっており、いわゆる逆転現象も従前より大幅に減少して一八通りとなり、定数二人の差という顕著な逆転現象も一通りのみに減少していたものである。さらに、公選法一五条七項本文の人口比例原則に従った人口比定数を見ても、別表第三のとおり、人口較差の最大値は特例選挙区を除いた場合も、特例選挙区を含めた場合も右と同一の値となっている。

本件改正後の本件条例に係る定数配分規定においても、本件選挙当時右のような投票価値の不平等がなお存在していたものであるが、公選法が定める前記のような都道府県議会の選挙制度の下においては、右のような投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使の範囲内のものとして是認することができるものというべきである。よって、本件条例に係る定数配分規定は公選法一五条七項に違反するものではなく、適法というべきである。

八以上の次第であって、原告らの本訴請求中、裁判所が定数配分規定を示すことを求める請求に係る訴えは不適法であるから却下し、本件選挙の無効の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官菊池信男 裁判官伊藤剛 裁判官吉崎直彌は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官菊池信男)

別表

一〜四〈省略〉

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